医療機器に関するユーラシア経済連合統一制度のこれまでの歩み
2014年12月23日、ユーラシア経済連合(EAEU)加盟国(ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア、キルギス)において、医療機器流通の共通市場を形成するために、「ユーラシア経済連合内での医療機器(医療目的の製品及び医療機器)流通の統一原則及び規則に関する合意」が締結されました。
医療機器の統一流通市場を形成することは、ユーラシア経済連合条約にも盛り込まれており、技術規制の重要な制度として制度の整備が進められてきました。(⇒ユーラシア経済連合医療機器関連法令一覧)
2014年から、医療機器に関する各種決議が採択されてきましたが、法令の施行は、アルメニアの国内整備が整うの待っていたため、最終的に施行されたのは2017年5月6日でした。
しかし、統一データベースの整備の遅れ、ラボや医療機関の認定手続きの遅れなどから、データベースが整備され、本格的に動き出したのは移行期間の最終年である2021年に入ってからで、2021年9月現在、EAEUの統一規則 (以下、EAEU規則) に基づいて登録が完了している医療機器はたったの7点です。(⇒EAEU登録済み医療機器情報はこちら)(2019年に登録済みとされている機器もありますが、試験的に登録手続きをしていたものの登録であると考えています。)
当初は2021年12月31日までに、EAEU加盟国家の法令に基づいて登録された医療機器は、EAEU規則に基づいて登録されなおさなければならず、EAEU規則に基づいた登録が完了していないものについては、2022年1月1日から流通が禁じられるというものでしたが、数万点の医療機器の流通がストップするというありえない状況を引き起こす恐れがあるため、現在改定案が審議されています。
しかしながら、EAEU規則での登録に一本化されることは決定事項であり、今後は、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、アルメニアに医療機器を新たに出荷する場合、EAEU規則に基づいた登録をする必要があります。
EAEU規則での医療機器登録手続きの対象外となるケース
以下の医療機器は登録の対象となりません。
- 個人的な仕様のために、連合の関税領域に自然人によって持ち込まれるもの。
- 患者の個人的注文によって製造され、医療従事者の指定に関する特殊要件が提示され、具体的患者による専ら個人的な使用のためのもの。
- 在外公館の職員によって使用されるために連合の関税領域に持ち込まれるもの。
- 連合の領土に到来した輸送機器の乗客や乗組員、輸送機器の運転手への応急処置をするために連合の関税領域に持ち込まれるもの。
- 国際文化イベント、スポーツイベントの参加者、国際遠征の参加者の応急処置をするため、展示の実施のために連合の関税領域に持ち込まれるもの。
- 学術目的のものを含み、調査(試験)実施のために連合の関税領域に持ち込まれるもの。
- 加盟国家の法令によって規定された場合に、人道的支援として連合の関税領域に持ち込まれるもの。
商品サンプルとして医療機器のみを送るというようなことはできません。5の展示会実施のために持ち込まれるものは、展示会の概要などを通関で提示する必要があったりと、「未登録の医療機器」の持ち込みに対する取り締まりは非常に厳しいですので、注意してください。
EAEU規則での医療機器登録の特徴
EAEU規則が、ロシア国内法に基づく医療機器の登録とは異なる点を下記のようにまとめました。
- 実際の登録手続きを行う国(基準国家)とその後承認を行う国(承認国家)で、登録が完了した暁には、製品を流通することができます。承認国家は最低でも1か国選択しなければならず、EAEU規則で登録した場合、最低でも2か国で医療機器が流通できることになります。
- 技術試験、毒性試験、臨床試験が同じフェーズで受験ができます。(ロシア国内法では、技術試験+毒性試験のあと、当局の許可を得て臨床試験、という流れだった)
- リスクレベルの高い医療機器に対しては、工場監査が追加されました。
- アフターセールモニタリングにより、有害事象の報告義務があります。
- EAC Medマークの貼り付け
基準国家と承認国家
基準国家とは、医療機器の登録手続きを実際に行う加盟国のことです。
承認国家とは、基準国家の行った登録手続きを承認する国で、加盟国から最低1か国選択しなければなりません。
基準国家と承認国家の両方で、登録に関する国税を支払う必要があります。
申請者資格
医療機器の登録は、ユーラシア経済連合加盟国家の居住者(レジデント)である必要があるので、外国メーカーは直接の申請者となることはできません。医療機器の登録申請をしてくれる法人(又は個人事業主)と登録申請委任契約をする必要があります。この契約書は、公証役場で公文書化した後、アポスティーユを取得する必要があります。
リスククラスの決定と申請書類の特定
医療機器の適用に関するリスククラスは、次のように分類されます。
- クラス1 適用に関する潜在リスクの程度が低い医療機器
- クラス 2a 適用に関する潜在リスクが中程度の医療機器
- クラス 2b 適用に関する潜在リスクの程度がやや高めの医療機器
- クラス 3 適用に関する潜在リスクの程度が高い医療機器
申請書類は、先述の登録申請委任契約書を含み、法定されているのだけで29種類あります。原則として外国語で作成された書類はすべてロシア語訳する必要があります。リスククラスに応じて、要不要があるので、リスククラスが決定したら、申請に必要な書類を選定し、準備に取り掛かります。
試験
申請書類には、各種試験レポートも含まれますが、医療機器の登録にあたって必要となる試験には次のようなものがあります。
- 技術試験(原則すべての医療機器が対象)
- 毒性試験(人体に触れる医療機器が対象)
- 臨床試験(原則すべての医療機器が対象だが、リスクレベルが低い場合は臨床データの提出でOK)
- 計測機器の型式承認試験
技術試験と毒性試験は、ユーラシア経済連合内で認定されているラボや医療機関で実施する必要があるので、外国(日本含む)で行った試験レポートを流用することはできません。試験を実施するにあたって、当局の輸入許可が必要です。
血圧計などの計測機器に関しては、医療機器登録と並行して、計測機器の型式承認が必要となりますが、型式承認試験のレポートを医療機器登録手続きでも提出する必要があります。
申請と鑑定手続き
登録申請に必要な書類がそろったら、基準国家の当局に国税の支払いをし、ようやく当局に申請をすることができます。
また、申請のタイミングで、承認国家を選定しておく必要があります。
書類が受領されてから、5営業日で書類の精査が行われます。不備があった場合は当局からの是正命令があるので、30日以内に是正します。
当局の担当者によって、提出書類に基づいて医療機器の品質が高く、安全で、有効であるかの鑑定が行われます。この鑑定手続きの過程で、リスクレベル2a(非滅菌機器を除く)、2b、3の医療機器は、工場監査を受ける必要があります。
鑑定期間は90営業日とされており、この期間に工場監査の期間は含まれません。
工場監査
リスクレベル2a(非滅菌機器を除く)、2b、3の医療機器 は、工場監査を受ける必要があります。
これまでの医療機器登録ではISO13485の証明書を提出すればOKでしたが、今後ISO13485と類似した工場監査を受ける必要があります。
監査機関は、ロシアの場合ですと、当局(RZN)による直接監査か、委託業者のVNIIIMTが行います。
インパクトが非常に大きく、法整備がまだまだ雑なため、不明確な点が多いですが、次のようにまとめることができます。
- 初期投資 ISO13485と完全にイコールではないため、場合によっては必要な設備、人員の配置を行う必要がある。出荷製品の品質を保証するために、企業の構造から生産管理体制まで幅広くチェックされる。
- 言語の問題 監査時に提供される書類はロシア語である必要がある。すべての書類をロシア語に翻訳するのは現実的に不可能であることは当局も了解しているため、いくつかの書面は英語でも可能となるだろうが、ロシア語の文書も一定量必要となると考えられる。書類作成のための翻訳スタッフ、監査実施時の通訳費用が問題となる。
- 高コスト 監査費用の算定方法が法定されているが、従業員の数などによって決まるため、企業規模が大きくなればなるほど監査費用も増加する。通常、高リスクの医療機器を製造しているのは大企業であるケースが多いため、監査費用も当然高額となる。監査にかかる費用の最高額として当局が算定した数字:海外監査の場合260万ルーブル(うち190万ルーブルが旅費・出張費、監査費用が67万3000ルーブル)
承認国家による承認
基準国家の当局による鑑定が終了した時点で、申請者に対して「承認国家への国税支払い命令」が出されます。国税支払いが完了すると、承認国家の当局が基準国家の鑑定結果(登録許可)を承認するための審査を開始します。
承認プロセスに要する期間は30日とされており、30日以内に承認・否認の連絡をしない場合、承認したことになります。
万が一承認国家が否認した場合、一応協議の場が持たれますが、協議の結果に拘束力はないため、否認を押し通すことができ、否認した国家領域では医療機器の流通ができません。
登録証明の発行
承認国家による承認が終了すると、登録証明が発行されると同時に、データベースに登録されます。
登録証明は無期限ですが、登録時から申請内容に変更が生じた場合は然るべき手順で登録変更手続きをとる必要があります。
データベースには、登録済みの医療機器の概要が記載されるとともに、外観写真、取説が公開されます。
EACmedマークの貼り付け
登録が完了した医療機器には、出荷前に上記マークを製品本体、個装、輸送包装、取説に貼り付けなければなりません。製品本体へは技術的に不可能な場合や用途にそぐわない場合は貼り付けなくてもかまいません。
横幅の最低サイズは6mmです。
マークの貼り付け方法に規定はありませんが、機器の使用期限中は像が鮮明であるような耐摩耗性を有していなければなりません。
登録後
登録が完了してもそれでおしまいではありません。
リスクレベルによっては、アフターセールモニタリングが必須のものがあり、有害事象の報告義務があります。リスククラス3、リスクラス2bの埋込型医療機器の場合、製造者(その委任を受けて申請した代理人)は、登録後の臨床モニタリングを実施し、3年間の間毎年、その報告書を提出する義務があります。
また、軽微な仕様変更であっても、登録時の情報に変更を加える場合は何らかの手続きが必要です。
医療機器の登録義務違反は、業務停止や罰金などの行政罰にとどまらず、法人代表者は刑罰の対象になることもあります。
苦労して取得した登録証明の取り消しなどの可能性もありますので、登録しっぱなしではなくてしっかりとフォローをしていく必要があります。
今後の動向
2022年1月1日から、EAEU規則での医療機器登録が本格化します。
それにあたって、これまで不明確だった手順など法整備がさらに進むことが予測されます。
当局はもとより申請を請け負うエージェントや、医療機器業界全体にノウハウが蓄積されていくことで申請期間の短縮が期待されます。
弊所では、今後も医療機器登録実務や法務をフォローアップしていきます。
ご質問や登録代理をご依頼の方は、ぜひともご相談ください。